「親知らず」の「抜き時」

レントゲンを見ながら、患者さんに「親知らず」を抜いたほうがいいと説明しても、「わかりました。抜きます」と言う患者さんはまずいません。今痛くなく、抜けば腫れる、痛い。明らかすぎる結果に正論など通用しない。

しかし、何事も「しおどき」があることをお話ししたい。

AさんのCT写真B君(私の息子)のCT写真

2枚の写真とも、抜歯するには、それなりの難しさをもった親知らずです。いずれも、下歯槽動脈に1から2ミリと近接しており、真横に生えており、かつ骨が歯のかなりの部分を包み込んでいます。

しかし決定的に違う点があります。それは、Aさんには、親知らずとその前の歯との間にあるべき骨が(赤く塗ったところ)何回かの腫れの結果、すでになくなり炎症性肉芽組織になっているということです。親知らずを抜けば、赤い部分がなくなるわけですから、炎症はなおります。しかしその前の歯(第二大臼歯)を支えるべき骨は3ミリ程度になってしまうでしょう。20代初めの若者なら、赤い部分が薄い骨であっても、慎重な抜歯を行えば、十分な骨量に復活します。しかし50代のAさんでは、骨がないのですから復活しようがありません。つまり本来はほかの歯の健全性のために親知らずを抜くべきという正論が、時期を逸すれば、隣の歯も危険な状態にしてしまうということです。

Aさんは、「若い頃かかった歯医者さんの誰一人教えてくれなかった」と残念がっていました。現在Aさんは抗ガン治療を受けています。免疫力が低下するため、なおさら親知らずの炎症が心配なのでしょう。今できる予防法を励行していただいています。

このような親知らずの場合、多くの開業医は、大学に紹介するでしょう。本当に、大学の口腔外科の先生は上手なのでしょうか?勿論上手な先生はいます。しかし残念なことに外来にいる多くの先生は、勉強中の若い先生方であり、うまいだのへただのといった次元ではなく皆似たり寄ったりといったところでしょう。さらに悪いことに権威に守られている分、自分自身を過大評価している人もたくさんいます。私はプロの開業医として「親知らず」をできるだけ快適に抜きたいと考えています。

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